ハジマリのオワリ。


written by Mis.和貴 萌




「2年・・・ねえ」


その年月は長い様で短かった。短いようで長かった。
甘い物、辛い物、優しい物、痛い物、沢山の思い出が流星の様に瞬いては消えて行った。
三蔵と出会って、共に戦って、怪我を負って死にかけもした。
途中旅を抜けた事もあったっけ。あの時はもう二度と会わないだろうと思っていたけれど
何の因果かまた彼等に出会った。
大切な人の死にも立ち会った。命の誕生にも出会った。


三蔵と言葉も無く想いを通わせたのは――1年前頃から。
「好きだ」とも「付いて来い」とも言われなかったけれど、何となくそれは彼らしく思えて
あまり驚きも無かった。それよりも自分に触れてきた事の方が遥かに驚いたから。
人との接触を嫌い乱暴で粗野なくせにストイックに見えて、その癖何故か肝心な時は
手が早くて。痛い程強く乱暴に抱き寄せられた時は、本当に驚いた。
あれが彼なりの告白代わりだったのかな、と思ったのはその3日後。
そう言ったら悟浄に「そりゃ三蔵並みに鈍いって」と笑われた。
だって、本当に何の脈絡も無かった様に見えたから。唐突に求められたら驚くでしょ?
そう八戒に言ったら、とても複雑な微笑を浮かべられてしまった。


「三蔵は、ずっと前から貴女の事を好きでしたよ」


三蔵は子供っぽいとか、オヤジ臭いとか、偉そうだとか、色々な事を言われているけれど
彼は結局の所かなり純粋で正直な人間なんじゃないかと思う。
無愛想なのも、言葉が乱暴なのも、実力行使に出るのも全部ストレート。無駄が無い。
言ったり行動したりする事で自分に降りかかってくるかもしれないリスクからも逃げたりしない。
器用ではないのに、まっすぐにてらいもなく物事に向かって進む姿勢。
悟空とは違った見方で、彼も「本能」で生きているんじゃないかな、と思う。
でも、とても思考的な所もあって、物事を冷静に客観的に見る事も多い。
「静」を好むくせに「動」のエネルギーも持っている人。
知れば知る程、三蔵は自分にとって「カオス」だと感じた。








そして――あれから1年。
自分達はまた、束の間別の道を行く事になった。
そう、ほんの束の間。きっと遠くない未来にまた会えるから、大丈夫。
そう、思った。










その最後の晩、三蔵と抱き合った。
三蔵はいつもと違って静かで一言も言葉も発さないまま、自分の目を始終見ていた。
快楽に潤む瞳も、痛みに滲む涙も全部。
いつもは口付けない所にも、気が遠くなる程沢山その唇と舌を滑らせた。
恥ずかしくて思わず「嫌」と小さな声で言ったけれど、黙ったまま更に強く引き寄せられただけ
だった。でも――その口付けはどれもとても熱いのに、とても穏やかな想いを感じた。
静と動と同時に体の中に内包できる人。三蔵の体は熱く、指先は冷たかった。
強く体を拘束されているのに、それは何故か拘束されているようには感じなかった。
それはきっと――彼の精神が誰よりも自由を求めて生きているからだろう、と思った。
そして――自分もそれは同じだったから。










「2年・・か」


ぼそりともう一度呟くと肩先の金の髪が小さく首筋を撫で上げるように動いた。
ベットに座り込んで寄りかかり合う姿勢は一見甘え合っている様にも見えるけれど
二人の心は今、遠く静かだった。


「随分長い付き合いになっちゃってたねえ」

「・・・大した長さじゃねェだろ」


呟きに返って来た言葉に小さく笑う。
確かにそうかもしれない。あっという間だとも思えたから。


「三蔵――きっと帰って来てね」


いつも意地っ張りだったけれど、今くらいいいかな。いいよね。
口から付いて出た言葉に、そう心の中で付け加えた。


「お前が行って来るんだろ」


返って来た言葉に、目を思わず見開く。
待っているのは自分の方だと、そう言外に言っている三蔵。










二人はそれぞれ違った道を進む。
お互いに譲れない、望む物が目の前にあるから。
そして、それを互いに止める事などできない。
互いがその道を突き進むのを見たいから。
そしてそんな相手を何よりも強く愛しているから。
この気持ちはもしかしたら「恋愛」の熱さとはちょっと違うのかもしれない。
でも、それでもいいから。










「これ・・・いつ送ればいいかな?」

「俺が知るか」






手元にある、二つの携帯。
性質の悪い事に互いに束縛されるのは好きじゃない。
でも――。






「・・じゃ、月に一回、件名「生きてますか」とかでもいい?」

「だから知るか」






思わず笑ってしまった自分と、小さく唇の端に笑みが浮んだ三蔵。
もう一度、深い深い口付けを交わした。
「今」はひょっとしたら最後になるかもしれないからどれだけ離れていても
忘れられない位強烈な思い出が欲しい。
でもそれもまた色褪せるだろうけれど、そうしたらまた会いに行けばいい。
きっとまた、会える。必ず。










だから「さよなら」は絶対に言わない。
強がりじゃなく、確信しているから。














『生きてるか』

『生きてるよ』










『生きてますか』

『愚問だな』










『相変わらずか』

『うん。相変わらず』










『変わりないですか』

『呆れる程にな』










言葉少ないメールが、時間を置いてそっと来る。
それは遠ざかりかけた記憶と気持ちをすぐ傍に引き寄せてくれる。
いつからこんなに強くなったんだろう、と自分で思う位に。
寂しくないと言ったら嘘になる。
でも――自分も貴方と同じ生き方を貫きたいと思っている。
それだけで今は、強くなれる。
貴方のその生き様を思うだけで、励まされるよ。






そして――必ずまた会いに行くよ。
貴方より早く会いに行くからね。
先は越されないつもりだから。

そしてその時はまた言葉じゃなく、体温で、瞳で会話しよう。
沢山の事を。










だからそれまでは――今が「ハジマリ」の「オワリ」。







この作品へのご感想は、当委員会まで。(作者様にお伝え致します)




>> Return to index <<

Material from "La Boheme"