Coventry Carol………… が久しぶりに立ち寄った村は、妙に沈んでいた。 何件かの家では、葬式の後片付けをしていた。不幸が重なった為なのかとも思ったが、いつも世話になっている教会の神父が、彼女に言い辛そうにこう語った。 「裏の山に妖怪が棲み付いていたのですよ」 「妖怪ですか」 「ええ。男の妖怪が1人。あと、数人の……」 は旅の装具を外しながら、何の気なしに答えた。 「それは皆さん難儀なさっているでしょうね。ただでさえ冬支度も大変なのに」 神父は何となく言葉を濁し、話題を変えた。 ………… 「やはり聞かれたのですね、さん」 夜、宿代わりに泊めてもらっている教会へ帰ってきて、いきなり登山装備を出し始めたを見て、神父は諦めたように言った。 「はい」 なぜ、彼らをおとめになれなかったのですか?、等と、愚かな質問をしてしまいそうで、それきりは押し黙った。 礼拝堂の方から、聖歌隊の歌が聞こえてくる。ミサの練習をしているのだろうか。 Lullay, Thou little tiny Child,神父はその場から動かない。のほうが、沈黙に耐え切れなくなって、口を開いた。 「……そういえばもう、アドヴェントに入ったのですね」 「そうです。もう今度が、第3主日です。それから、子供たちのためのクリスマス会も」 O sisters too, how may we do,「それは……、村の子達も楽しみにして……」 「さん」 当たり障りのない話題を、突然、神父が遮った。 「あなたは、どう思われますか?」 This poor youngling for whom we sing「我々も、無慈悲なユダヤの王と同じ人間なのです」 「…………」 「主イエスが御生まれになった年、自らの地位と権威を守るため、ベツレヘムの全ての幼児を虐殺した、ヘロデ王と」 Herod the king, in his raging, 「彼は、自分のものより遥かに大きな権威と力に怯え、そして嬰児殺しの罪を犯しました。」 「神父さま……」 「そして村の男たちも、妖怪の力に怯えて、愚かな行いに手を染めました。私もまた、それを座して見送るしかありませんでした。もし、あの妖怪たちが暴走して村を襲った時、出るであろう犠牲を救うほどの力は、私には、ありません」 That woe is me, poor Child for Thee!「さん」 神父は、言った。 「力なき故の罪を、主は、許してくださるのでしょうか?」 ………… 白い柔らかい雪が足に纏わりつく。 降雪は無かったが、風が強い。地吹雪が、顔を叩く。 は、ひと足、ひと足、注意深く、山道を登った。 それは以前、「彼ら」が辿った道であることを、まだ、彼女は知らない。 峠近くまで到達した頃、やっと、風は止んだ。 村で教えられたとおり、山道を少し脇にそれた所に、小さな洞窟があった。 粉雪を踏みしめて、その前に立ち、周囲を見回す。 辺りは、目も眩むほどの、真っ白な雪原。 村で語られたとおり、そこにはもう、何も、無かった。 Lullay, Thou little tiny Child, コヴェントリー・キャロル |