おまけ 子供だ。 小さな子供。こんな森の奥不覚に一人で入るなど、親には常識について語りつくしても足りないのではないかと思わせるほどの子供。 子供は、森の中を遊び場にしているわけではなかった。 ただ、ここのは東に向けて旅立つ人が多くて。 何か手伝いがしたくて、それだけだった。 周りでは大人達が沢山集まっていて、けれどあまり良い顔をしていなくて。 あまり良い事ではないんだろうな、とは思っていた。 子供だけで危ない事をしてはいけないとは言うけれど、かと言って四六時中監視しているわけでもない。どちらかと言えば、周囲にぴりぴりとしている為に子供にまで目が行き届かないというのが実情だ。 だから、子供は来た。 森の中で昔採ったおいしいものを持っていけば、もしかしたら喜んでくれるかも知れない。一人で森まで来たことは良い顔をしないかも知れないけれど、もう一人でなんだって出来るんだって胸を張っていえる。 そう、思っていた。 森の中で迷って、転んで擦り傷を作ってしまった。 泣きたくて、けれど泣いてしまったらきっと立ち上がれなくなってしまう気がして。 だけど止めたくても涙は出てきてしまって。 そんな時、不意に視界に入ったのは白い光。 こんな所で白い光なんてあるわけないし、時間の概念なんてとっくになくて、けれど。 「……お前、が?」 森を抜けたのだと気がついたのは、それを見つけてからだった。 白い光が見えて、とりあえずわけが判らないけれど走って。 走って、走って、走って。 ただ、辿り着きたかった。怖かった。助けてほしかった。 相手が何なのか知らなかったし、判らなかったし、それこそ何だって良かったのだ。 「え……これ? くれるの?」 小さな、小さな光。 白い、小さな生き物。 名を竜と呼ばれる存在である事を、子供は知らなかった。 何故、竜がそんな森のはずれに居たのか。 どうして、子供相手に他の動物の様に警戒しないのか。 子供は、何も知らなかったから考えなかったのだ。 「ねえ、お前も一人なの? 良かったら一緒に……」 ふわりと。 子供の手に託したら用事は済んだとばかりに小さな白竜は翼を広げた。 その体躯と同じ程度には小さな翼を目いっぱい広げ、飛び上がった竜は子供の脇をすり抜けるかの様に自在に向こう側へと目指して飛んでいってしまった。 呆然とした子供が、手を伸ばす暇もなかった。 まるで夢のような一瞬ではあったけれど、その証拠は子供の手の中にあった。 泣いた事も森で迷った事も忘れて帰った子供は少しだけ怒られたけれど、手にしていたものを渡して早く眠っていた。子供が眠って少したった頃、大人達は自分達がぴりぴりしていたせいで子供に余計な不安の種を広げてしまったと思い反省した。 机の上には、白い花をつけた桜の枝が静かに見ていた。 その町に、東から西方へ向かう風変わりな四人の旅人が現れたのは。 およそ、三日後の事だった。 |