香る風の季節は移り考えたところで、何の意味もない事だ。 気が付けば、常に同じ結論で止まっている思考に内心では苦笑いをする。 「だからいつも言ってるだろうよ? 」 「……泣きますよ、他の人達が」 「泣かせておけ!」 けらけらと笑う声は、別に見えない所から聴こえるわけではなかった。 正直な所を言えば、と呼ばれた少女は見えない所から聞こえる方が。よほど気分的に良かっただろうにと思ったくらいではあるものの、それを口にすれば次回からの登場はもっと派手になるだろう。 それこそ、ご丁寧にも後光をさした上で絢爛豪華なセットとBGMまでつけるかも知れない。 彼女……もしくは、彼にはそれを実現させる事が出来るだけの力があるのだから。 「俺を退屈にさせてくれるんだ、ちったぁ工夫して俺を楽しませてみろって言うんだ……」 言いたい事は色々あった……いつもお昼寝用に使っている外に出してある長椅子に寝そべるなとか。相変わらずスケスケした衣装を着てるものだから、目のやり場に困るとか。あげく、どこぞの町の食堂の常連の様に長椅子の側にあるテーブルの上をばんばん叩いて無言でお茶の要請をするなとか。 それこそ、細かいところまで言えば神経がささくれそうなほど言いたい事はある。 が、神経がささくれるので言わない。 「貴方の『暇つぶし』などに付き合える存在など、彼ら程度でしょうに……」 言いたい事は幾らでもあるが、その対処に心得ていると言うのは少し悲しい。加えて、相手もこちらの言いたい事を判ったのか瞳に宿る輝きだけを変えて完璧な体型を見せびらかすかの様に―――実際、見せびらかしているのだろう。長椅子の上で優雅に体をくねらせる姿は、とてもではないが世界にどれだけいるか判らない信者には見せられない姿だ。 「そう言えば、は会ったんだっけ?」 「ええ……そうですね」 思わず声に覇気がないのは、単純に喋るのが疲れただけである。 常ならば、人の滅多に踏み入らぬ森の中。皆無とも言い切れないのが不思議なところではあるが、かと言って望まれる以外の言葉などほとんど発する事もない。 加えて言うのならば、大概はお茶の一杯を飲んだり一晩の寝床を提供したりするだけで、あっさりと帰ってくれるのだから。よほど運の悪い相手でなければ、こちらが記憶するほどのことなどないだろうとは固く信じている。 「ふん、気に食わないと言う顔だな?」 「この顔は生まれてから己の裁量で作り上げた顔です。貴方になにがしかの謂れを受ける覚えはありません」 ほとんど存在はしない筈なのだが、常のを知っていれば。他の人達は口をあんぐりと開けて驚いたのかも知れない。 ある者の前では、明らかに普通で。ほとんどの人々の前では、まるでここにいないかの様に振舞っている。少なくとも、そう見える態度や生活をしていると言うのに。 「ほう、相変わらずキツイ一言だな?」 「気のせいです」 きっぱりと言い切る現実こそが恐ろしいまでにおかしいと言えるのに、の声によどみは無かった。 「カワイソウだとでも言うつもりか?」 「何のためにです」 問いかけに対する答えではなく、さりとて問いかけそのものでもない言葉。 の言葉は否定でも肯定でもなく、質問ですらない。 「必要などありません、あるべきものは。おのずとあるべきところへ収まるでしょう」 「言葉の外側で『勝手になる』とか抜かしてないか、お前?」 「心外です」 確かに、仏教の教義の中で「あるがまま」と言うものはある。 例え、周囲がどんな状況に陥ろうと結果が出来上がっている以上は波に流されてしまえ、と、拡大解釈すればそんな感じだ。それでも、これが嫌味ではなく言っているのだとすれば、はかなりの天然だと言うことになるだろう。 「お前、いつまでここにいるつもりだ?」 「ご不満でもあるようですね」 「ああ、大いにあるな。人生そのものに!」 出されておきながら尊大な態度―――なのは今更とも言えるのだが、その姿を変わらず眼差しで見つめ。いつもの長椅子ではなく室内で作業する時に使う小さな椅子に腰を下ろしたは、完全に負けているにも関わらず立ち向かう瞳だけが唯一の武器だった。 「別にかまわないさ、お前がいつまでも『森』と言うゆりかごの中で眠り続けようとな。 堅固なる城壁、牛魔王達程度で敗れるものではない……ま。今ここにこられるのは、つまらねえ事に悟空くらいなものだろうさ」 自らを天と同等と名乗りを上げた、世間では妖怪の代名詞となっている孫悟空……。 だが、人々は知らない。彼は自らが名乗りを上げた程度には強力無比な力を秘めている事を、その気にさえなれば町や村など一瞬で壊滅させる事が出来るだろう。 並みの妖怪や天界人も同様だ。だからこそ天界は悟空の記憶と能力を封じて、手駒とする為に躍起になって動いたのだから。 「いつまでいるつもりだ?」 「さあ……」 |