epilogue ―― 飛天




次郎神は、努めて事務的な口調で、彼の上司に報告した。

「館に行った使いの者が帰ってきました」
「で、どーだった?」
「整頓され、無人になっていたそうです」
「……そうか」

観世音菩薩は、ふん、と鼻を鳴らして、横を向いた。
それが、何についての溜息なのかは、本人も含めて誰にも判らなかった。

「宜しいのですか?」
「何がだ?」
「…………」

問うた方も、問われた方も、漠とした思いを口に出来ずに、睨み合う。
しばしの間の後、今度は次郎神が溜息をついて、言った。

「今回の件の顛末は、あれで良かったのでしょうか」
「イイかワルイかなんて、俺たちが決める事じゃねぇよ」
「そんな事おっしゃって良いのですか?。菩薩」

『一応神様』の上司を次郎神が嗜めると、彼女は如何にもめんどくさそうに肘掛に頬杖をついた。

「じゃあ聞くが、お前はここが、あいつらに相応しい場所だと思ったか?」
「いえ、それはまあ……」
「だろ?」

形の良い腕が、生けられた蓮の花に伸ばされた。満載に盛られた花は、触れた所から幾編もの花弁をはらはらと落としていく。

「あいつらがここから居なくなったのは、天から堕とされたからじゃねえ。奴らは、ここを捨てていったのさ」
「ならば、彼らは何処へ向かうのでしょうか…」
「そりゃ、判らねぇな。あんな連中だから、行きたいところへ行くに決まってるだろうしよ」

観世音菩薩は、蓮の花を玩びながら、にやりと笑って言った。



「なあ、次郎神。本当の天国は、どっちだと思う?」







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Material from "妙の宴"