You may not be there


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悟空が倒れたのは、村に入ってから2日目の事だったらしい。

メンバーの中でも、一番元気で一番丈夫で一番よく食べる彼が体調を崩すなど全くの想定外だった一行は、とりあえず宿に滞在延長を申し出、その後、医者に診せたという。






「…………で、結局、『虫』が、原因だったのね」

悟空が寝ている部屋を避け、八戒と悟浄の部屋が事情説明の場になった。聞き手は、本来ならメンバーではない、黒髪の女性。

「ご存知なんですか?。
「ご存知も何も、この辺の住人なら子供でも知ってるわ。『眩虫』は、刺されてすぐに処置してれば、蜂やアブよりも無害なんだけど……」

悟空のすり傷切り傷虫刺されなど、怪我の内に入らない。刺された事すら本人は気付かなかった可能性もある。
すぐに気付けば簡単な処置だけで完治するのだが、1日放置してしまっては…と、医者が言葉を濁していた。

「治らねぇと、死んじまうの?」
「すぐにどうこうって事はないけど、何週間もそのままにしたら判らないわ。それに平衡感覚を侵されるから、どのみちあのままじゃ旅にも連れて行けないわよ」

言ってから、は三蔵の方を伺ったが、彼は眉1つ動かさなかった。……少なくとも見た目は。

「全身に効果のある解毒剤とかは無いんですか?」

打開策を見つけようとする八戒に、は事も無げに言った。

「あるわ」
「医者はそんなこと言ってませんでしたよ」

はため息をついた。

「そりゃ、そうでしょうねぇ。原料は、あの山にしかないんだから」

彼女が指差した先には、秀麗な山がある。

「あの山に自生してる植物が要るのよ」
「近在の村なんですから、ストックとかは無いんですか?」
「妖怪が出るようになってから、取りに行けなくなっちゃったんですって」
「…………なるほど」

一度引き下がった八戒の台詞を受けて、悟浄が肩をすくめて言った。

「しゃーねーな。俺たちが取りに行ってやるっきゃねーだろ」
「そうですね。僕と悟浄の2人もいれば、行って帰ってついでに妖怪も片付けて来れるでしょうから」
「それが良いわね。2人が一緒なら、私としても心強いわ」
「…………………は?」

悟浄と八戒は、同時に目を点にした。

「私も行くわよ。あの山には詳しいの。ボディガード宜しくね」







数分後、結局、を説得することを諦めた八戒と悟浄は、準備の為に退席した。
2人きりになって初めて、それまでほとんど口をきかなかった三蔵が、じろりとに目を向けた。

「…………礼は言わねぇぞ」
「ももも勿論です。そんな畏れ多くも勿体無い」

大慌てではぶんぶんと頭を振った。と、言うより、三蔵に素直に感謝などされる方が、怖すぎる。
苦し紛れに、頭を下げて話題を変えてみる。

「それより…、あの2人を、暫しお借りします」

彼女の様子を一瞥すると、三蔵は、更に眉間に縦皺を追加して、不機嫌そうな声でつぶやいた。

「ふん。嬉しそうな顔しやがって」
「…………………………すみません。」








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