― 2 ― 山道は思ったほど厳しくもなく、陽気の良いのも手伝って、まるで遠足のような道行きだった。 「季節さえ選べば、子供だって歩けるルートなのよ」 はあれこれ説明しつつ、喜々として森を歩いていく。あの鳥の名は何と言うのだとか、ここの窪地では秋にはキノコがよく採れるのだとか。緑豊かな山は、本来なら村の人々の糧を豊富に提供してくれる、身近な生活の場だったのだろう。 ひと1人分しか幅の無い踏み分け道には、ジープもバイクも通れない。 のバイクは宿に預けて、ジープは白竜の姿になって、3人と一匹は自分の足で山登りをする事になった。徒歩の旅に慣れていない悟浄などは、些か疲れ気味だ。 「元気だねぇ、」 「森の中を歩くのは好きなの。それに。まだまだこんな登りは序の口よ」 「ここの山にも来たことがあるんですか?」 「ええ。下の村をベースにして、よくあちこち見て回ったわ。村長ともドクターとも、顔見知りなの。………あ。こっちの沢に泉が湧いてるから、ちょっと休憩しましょ。ジープ!。こっちよ」 は地図をちらと見て、ひょいと道を外れたかと思うと軽やかに斜面を下りて行く。その後を、ジープがパタパタと羽音を響かせて、続いていった。 八戒と悟浄も、彼女の踏みあとを辿ってゆっくりと沢を下り始めた。 沢を下りきると、既に、は泉のほとりで荷物を下ろして待っていた。 足元には、岩肌から湧き出す透明な水が、小さな水溜りを作っている。は、嬉しそうに水を飲んでいるジープの背を、これまた嬉しそうになでている。彼女は動物も好きらしい。 喉を潤し、水筒に水を補給したりした後、八戒とは地図を覗き込みながら、現在位置やら、この後の行程やらを話し合い始めた。 悟浄のほうは、あまりそういう事には興味がない。とにかく、と八戒について行けばいいのだ。 彼は煙草に火をつけると、ぼんやりと周囲を見渡した。 頭上には、緑を湛えた枝が天井のように茂り、足元は柔らかい土と下生えの草。今まで、主に自分たちが旅してきた砂漠地帯とは違い、確かにこんな場所なら歩くのも楽しいだろう。 周囲は、風に鳴る木々の音に、時折、様々な動物の声が混じる。生き物の密やかな、しかし雑多な気配。 多少の警戒心を感じるのは、やっぱり俺たちが森に入ってきたからか…………いや、それだけではないようだ。 「…………八戒」 悟浄は吸殻をぴんとはじいた。八戒は悟浄と視線だけを交わすと、極めて自然に荷物を背負い、に言った。 「そろそろ行きましょう。あんまり休んじゃうとまたペースが落ちちゃいますよ。僕らは山に慣れてませんから」 「そうね。もう暫く歩かなくちゃいけないし」 は何の疑問もなく、またジープを従えて、楽しそうに斜面を駆け上がった。 彼女が、八戒と悟浄の様子の微妙な違いに気が付いたのは、暫く経った頃だった。 |