― 3 ―



「あーぁ。ひでえ目にあったぜ」

翌日、昼近くになってようやく牢から出されると、悟浄は大きく伸びをした。

「もう厄介事を起こすんじゃないぞ」
「ケっ、大きなお世話だ」

憎まれ口を叩きながら、悟浄は役場の外に出た。明るい陽射しに芽を細めていると、背後から足音が聞こえた。何の気なしに悟浄がふり向くと、若い女が役場から出てきたところだった。
女がすっと悟浄の横を通り過ぎる、その時ふわりと甘い香りがした。緩く波うつ赤みがかった金髪と、こめかめのあたりから伸びた黒い編み紐を一つにまとめて、無造作に布で結んでいる。
白く薄い生地に色鮮やかな刺繍を散らした、ゆったりとしたシルエットの服は、一目で分かる高級品だ。
派手ではないが、趣味はいい。

―へぇ ―

顔はすれ違いざまに、ちらっと見ただけだが、今見送っている後姿はなかなか悟浄好みだ。
悟浄が目の保養をしていると、前を歩いていた女の足が不意に止まった。物陰から3.4人の男が姿を現し、彼女を取り囲む。なにか言い争った後、いきなり男達は、女の腕を掴んで連れ去ろうとする様子を見せた。
これを見逃す悟浄ではない。

「待てよ、コラ」

言うと同時に、男の頭に踵落としを喰らわせる。

「何だ貴様はっ」
「いくらモテないからって、力ずくは嫌われるだけよ。お兄さん」

不敵に笑う悟浄を、男達が取り囲む。

「お前のような輩に関わる暇はない、どけっ」
「我らの邪魔をすると、どうなるか分かっているのかっ」

口々に脅しをかける男達。その輪の向こうで、腕を掴まれた女は目を丸くして悟浄を見ていた。

「どうなるのか…」

女に片目をつぶって見せながら、悟浄は軽く腰を落とす。

「教えてもらおうじゃないかよっ!」

低い姿勢から一気に跳ね上がって、悟浄は正面の男のみぞおちに拳を叩き込んだ。

「げふっ」

短くうめいて男が倒れる。

「貴様ぁっ」

男の仲間が飛び掛ってくるが、三対一でも喧嘩慣れした悟浄の敵ではない。あっという間に叩きのめされて、残るは女の腕を掴んでいる男だけになった。

「まだやる気あんの?」

ぱきぱきと指を鳴らしながら近づく悟浄に、男は顔色を変えた。

「諦めんからな、

女に向かってそういい捨てると掴んでいた腕を放し、男は逃げていった。

「だいじょーぶ? お姉さん」
「ええ、ありがと。でも」

女は怪訝そうに礼を言った。青灰色の瞳がきょとんと悟浄を見ている。

「どうして助けてくれたの? 」
「いい女を助けるのは、いい男の義務っしょ。やっぱ」
「ふぅん……あ、もしかして」

しげしげと悟浄を見ていた女だが、急に何か思い当たったような表情で言った。

「悟浄? ハイライト吸ってた?」
「って事は……」

さっき自分と同じように役場から出てきたこの女。自分の名前と煙草の銘柄を知っているこの女は。

「…?」
「そう」

と名乗った女は、頷いて微笑んだ。そして面白そうに悟浄をながめる。

「ハイライト吸ってるから、もっとゴツイ人を想像してたンだけどねぇ…。まぁ助けてもらったことだし、よかったらウチに来る?」
「行く行く」

悟浄とと名乗る女は、連れ立って歩き始めた。








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Material from 'Blue Moon'