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「あーぁ。ひでえ目にあったぜ」 翌日、昼近くになってようやく牢から出されると、悟浄は大きく伸びをした。 「もう厄介事を起こすんじゃないぞ」 「ケっ、大きなお世話だ」 憎まれ口を叩きながら、悟浄は役場の外に出た。明るい陽射しに芽を細めていると、背後から足音が聞こえた。何の気なしに悟浄がふり向くと、若い女が役場から出てきたところだった。 女がすっと悟浄の横を通り過ぎる、その時ふわりと甘い香りがした。緩く波うつ赤みがかった金髪と、こめかめのあたりから伸びた黒い編み紐を一つにまとめて、無造作に布で結んでいる。 白く薄い生地に色鮮やかな刺繍を散らした、ゆったりとしたシルエットの服は、一目で分かる高級品だ。 派手ではないが、趣味はいい。 ―へぇ ― 顔はすれ違いざまに、ちらっと見ただけだが、今見送っている後姿はなかなか悟浄好みだ。 悟浄が目の保養をしていると、前を歩いていた女の足が不意に止まった。物陰から3.4人の男が姿を現し、彼女を取り囲む。なにか言い争った後、いきなり男達は、女の腕を掴んで連れ去ろうとする様子を見せた。 これを見逃す悟浄ではない。 「待てよ、コラ」 言うと同時に、男の頭に踵落としを喰らわせる。 「何だ貴様はっ」 「いくらモテないからって、力ずくは嫌われるだけよ。お兄さん」 不敵に笑う悟浄を、男達が取り囲む。 「お前のような輩に関わる暇はない、どけっ」 「我らの邪魔をすると、どうなるか分かっているのかっ」 口々に脅しをかける男達。その輪の向こうで、腕を掴まれた女は目を丸くして悟浄を見ていた。 「どうなるのか…」 女に片目をつぶって見せながら、悟浄は軽く腰を落とす。 「教えてもらおうじゃないかよっ!」 低い姿勢から一気に跳ね上がって、悟浄は正面の男のみぞおちに拳を叩き込んだ。 「げふっ」 短くうめいて男が倒れる。 「貴様ぁっ」 男の仲間が飛び掛ってくるが、三対一でも喧嘩慣れした悟浄の敵ではない。あっという間に叩きのめされて、残るは女の腕を掴んでいる男だけになった。 「まだやる気あんの?」 ぱきぱきと指を鳴らしながら近づく悟浄に、男は顔色を変えた。 「諦めんからな、」 女に向かってそういい捨てると掴んでいた腕を放し、男は逃げていった。 「だいじょーぶ? お姉さん」 「ええ、ありがと。でも」 女は怪訝そうに礼を言った。青灰色の瞳がきょとんと悟浄を見ている。 「どうして助けてくれたの? 」 「いい女を助けるのは、いい男の義務っしょ。やっぱ」 「ふぅん……あ、もしかして」 しげしげと悟浄を見ていた女だが、急に何か思い当たったような表情で言った。 「悟浄? ハイライト吸ってた?」 「って事は……」 さっき自分と同じように役場から出てきたこの女。自分の名前と煙草の銘柄を知っているこの女は。 「…?」 「そう」 と名乗った女は、頷いて微笑んだ。そして面白そうに悟浄をながめる。 「ハイライト吸ってるから、もっとゴツイ人を想像してたンだけどねぇ…。まぁ助けてもらったことだし、よかったらウチに来る?」 「行く行く」 悟浄とと名乗る女は、連れ立って歩き始めた。 |