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 町の中で、ケーキを扱うような店は少ない。
 当然、そう言う店があると言う事はそれなりに安定した経済状況を現す。その事も手伝ってなのか、たいがい結構な高価だ。
「どれにする?」
 ケーキと言うよりパン屋と言った感じがするのだが、他に店が無かったのでどうにもならなかった。
 残念ながら、悟浄にはとてもではないが材料を買ってきて台所を借りて。自分でケーキを焼く、などと言った器用な事は出来ない。
「……やっぱ、駄目か?」
 こっくりとうなずいた子供の目には、ちょっぴり涙らしきものが浮かんでいる様な気がする。
 今はともかく、将来は美人さんにならないとも限らない子供を泣かせるのは気分的にも世間様的にも具合は全然よろしくない。
 正直、通りすがりの人々の視線が痛い……。
「どーすっかなあ……?」
 旅の途中なので、当然知っている女がいるわけではない。作ってくれそうな誰かと言うのは、残念ながら思い当たらなかった。
 この町の知り合いは、残念ながらまだいない。いたら、とうの昔にその女に頼んでいるだろう。
「よし、ちょっと待ってろ
「おにいちゃん?」
 手を引かれて行き着いた先は、宿屋。
 この町は観光都市ではないけれど、宿屋のレベルは悪くなかった。
 頼み込んで厨房を借り、そこでケーキを作ってもらうと言う案もあったが。流石にそこまでしてもらうわけにはいかない。
 何より、宿の厨房を預かっているのが男性だからと言うのもある。
「だからって……なんで僕にケーキ作りなんてさせるんです?」
 片眼鏡の青年が、笑いながら汗を流しつつ。それでも腕まくりを始めているのは、別に断るつもりがないからだろう。
 その証拠に、手際よく卵を割ってバターを溶かし混ぜ、砂糖も小麦粉もきっちりはかってふるいにかけて、オーブンもすでに余熱をいれてあると言うこまやかな気配り具合。
 もちろん、使用する香料やリキュール類もどこにあったのやら選別は忘れない。
「どうせ作れるなら、作ったところで罰があたるわけじゃねーだろーが。八戒よお」
「これで罰があたったら、僕達極悪人じゃないですか」
「……それでなくても極悪人だろ、俺ら」
「違いないですねえ」
 口調はのんびりだが、それに反比例して手際は本当に素晴らしい。
 ただし……一体、どこでこんな技を身につけたのだろうかと内心問いたい衝動にかられたりもするが。
 聴くだけ無駄なのだろうと、あっさり思った。
「待たせたな、。もうちょっとでケーキできるからな」
 こっくりとうなずいた子供の姿は、何やら落ち着かない感じだ。もしかしたら、帰りが遅くなって誰かが心配して待っているのだろうか?
「そう言えば、はなんで酒場なんかにいたんだ? あそこにの母ちゃんか姉ちゃんでもいたのか?」
 なんで父ちゃんや兄ちゃんでないかと言えば、単純に考えたくなかったのと。酒場には飲んだくれてる人達しかいなかったので、仮にケーキを頼んだのが性別男だとしてもまともに食べられるわけがないと思ったのであり。
 別に、悟浄が女好きだからではない。恐らく。
「いるかなって、でもちょっと違ったの。悟浄お兄ちゃんがいたの。よかった」
 笑顔を向けられて、不快になる人間などいない……厳密に言えば悟浄は人間ではないが、そんなのはわざわざ人に言う事ではない。特に、年端も行かぬ子供に言って混乱させたり恐れさせるのはもっと悪い。
「そうか、よかったな」
 わしわしと頭をなでるが、やはり厳密に言えば悟浄は何が良かったのか判らない。
 ともすれば、子供は迷子の可能性が大きいからだ。
「所で、のリクエストしたケーキはスモモを使ったケーキで良いんだよな?」
 残念ながら、さっき立ち寄った店にはお世辞にもケーキと呼べるものもなければ。子供の希望するスモモを使ったものもなく、それだけがネックであるとは言え譲れない一線でもあった。
「今、中でのケーキ作ってるから。もうちょっと良い子で待ってるんだぞ?
 代わりに、これくすね……いや、もらってきたから」
 悟浄の手の上には、丸くて小さな。ケーキの材料とクッキー生地を混ぜ合わせて作った、簡単なクッキーが載っていた。
「これ……?」
「クッキーは嫌いか?」
 恐る恐る、子供が悟浄の手に上のクッキーに手を伸ばした。
 それは、節など一切ない。つるつるとした子供特有の、ぷにぷにした手。
「いい、の?」
 クッキーに手が触れる瞬間、子供が改めて悟浄の顔を仰ぎ見た。
 身長差があるので、当然と言えば当然なのだが……それでも、見なくてはならなかったのだろう。
、子供が遠慮なんかすんじゃねえって」
 食いな、ほら。
 差し出され、無理矢理取らされた手の上のクッキーと悟浄の顔を見比べて。
「やっぱり、そうだったんだ。
 ありがとう、悟浄お兄ちゃん。やっぱりそうだったんだ!」
 突然の喜び方に、何が何なのか判らない。
 正直を言えば、それでも良い様な気がしていた。
「あのね、そのね……だから……」
 モジモジとする子供を見て、悟浄は判らないながらも口を開くのを待つ。
 こう言う時、普段から子供を相手にしているとこう言う時に役に立つなあ。などと悟浄が思っているかどうかは判らない。
「渡して、欲しいの。いるから、大丈夫だってありがとうって」
「……どう言う事だ?」







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