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道幅が更に狭くなり、勾配も急になってきて、自然に3人の口数が少なくなってくる。
は、歩きながら空を見上げた。
標高が高くなり周囲の樹高が低くなった為、青空が近くに見える。
日はまだ高い。風が冷たくなってきたのは、高度のせいだろう。
山道には慣れているので、周りを見回すくらいの体力的余裕は、まだまだ彼女にもあった。でも、八戒と悟浄が感じているらしい“何か”の気配は、には未だ感じる事は出来ない。

「…………ねぇ、八戒?」
「大丈夫ですよ」

即答する八戒に、は自分の推測が当たっていた事を確信した。
但し、あくまで、推測である。一人旅が長いとは言え、命の危険にさらされた経験は、彼らのほうが比べ物にならない。は、どちらかというと、事前に危険を回避する判断の方で、今まで身を守ってきたといえるのだから。

いつもと同じように微笑みかける八戒に、「心強いわ」と笑って見せてから、は自分の思いに沈んでいく。

この山に妖怪が居るというのは、既知の事だ。
自身も、単身で妖怪と遭遇し切り抜けた事は無い訳ではない。だから、あまり気にしてはいなかった。頻度と危険度を総合すれば、人間の野盗の方が警戒を要するほどだ。
でも、八戒と悟浄の様子から推し量るに、状況は自分が考えているほど簡単ではないらしい。

――彼らは、妖怪に狙われながら旅をしてきたのだ。――


森の中はまだ明るく、木々のざわめきや鳥の声は平和そのものだ。なのに、2人の様子は、先ほどの休憩前と比べると、明らかに違う。
彼らに感じられて自分には感じられない何かがある、と言う事実だけは分かる。
普段は誇りであり頼りでもある自分の分析力が、今日ばかりは何だか煩わしいものに思えて、はこっそりと溜め息をついた。

八戒の肩のジープが、ピクリと何かに反応する。
視界の隅を、小さな獣が、カサコソと音を立てて走っていった。

は、もう1つの事実に思い至った。
すっかり忘れていた。
悟浄も、八戒も、生粋ではないにせよ、妖怪なのだ。
――自分とは、厳然と違う種族なのだ。

「大丈夫ですよ。

長い沈黙からいきなり、八戒がさっきの言葉を繰り返した。

「僕らはボディーガードなんですから。貴女は安心して道案内に専念してください。何が出てきても、貴女を守りますから」

彼の顔は、とても真剣だった。でも、いつもの余裕が感じられない。

は、彼の真摯な表情を見ても、あまり嬉しいとは思わなかった。こと、女性の生死に関わる事になると、彼はいつも、こういう顔をする。



「あなたを守ります」と言う彼の表情は、彼女の目に、とても危うく、儚く見えた。









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