― 4 ―



日が傾き始めると、森の中は見る見るうちに暗くなる。手元が見えるうちに、作業を終わらせて、3人と1匹は予定通りの場所に夜営地を定めた。
焚き火をおこし、簡単な食事をする。
いつもの旅ならジープの座席で眠ればいいのだが、山道と気温の低さの為、皆、持参した毛布にくるまって休んだ。

コーヒーを飲んでから少しすると、八戒は「ちょっと見回ってきますね。先に休んでいて良いですよ」と言って、ジープを伴って木立の間に消えていった。悟浄は眠るでもなく、黙って煙草をふかしている。
は毛布の中で丸くなったまま横になっていたが、暫くすると、小さく、つぶやいた。

「ねぇ、悟浄」
「あん?」
「あの人って、いつもああなの?」

彼女が起きているのを知っていたのだろう。悟浄は、こちらを向かずに静かに答えた。

「ああだねぇ」
「…………そう」

の顔が曇っているのを横目で見ると、悟浄は、ふうっと煙を吹いて、言った。

「アイツのああ言うとこ、嫌?」
「嫌じゃないけど…………見ていて、何だか痛々しくって……ね」

彼女の言葉を聞いて、悟浄はもう一度溜め息をついた。
そっか。あいつ、には話したのか……。

「なぁ、
「なあに?」

悟浄はゆっくりと、に顔を向けた。

「あいつ、自分のこと、どれっくらいあんたに喋った?」
「そうね。ずいぶん色々聞いたわ」

は、僅かに目を伏せる。

「生い立ちの事。双子のお姉さんと一緒に暮らしてた事。そして、彼女を失った事。それからね、悟浄」
「なに?」
「貴方と出会って、暮らし始めてからの事」

悟浄は「しょーがねぇなぁ」と、頭をかいた。

「んな事まで、あんたに話さなくったっていいだろうによ」
「あら。私が聞きたがったのよ。好奇心は旺盛なの」

2人は少しだけ、声に出して笑った。
密やかな笑いが収まると、悟浄はまた、次の煙草に火を点けた。

「アイツのこと、好きなんだろ?」
「好きよ。とっても」
「女って、好きだったら、一緒に居たいとか、守って欲しいとか、思うんじゃねえの?」
「思わない……って言ったら、可愛げがないかしら」

彼女の顔に薄く浮かぶ、苦い、笑み。

「私ね、あの人の柵(しがらみ)にはなりたくないの。彼にそのつもりが無くても――」

森の木々がざあっと音を立てた。
は目を閉じて、一度だけ見た、あの蔓草のような文様を思い出した。

「――私は、彼女とは、違っていたいの」

悟浄も、口の端を少しだけ上げて、笑った。

「……そっか」

熾きになった焚き火が、ゆらゆらと揺らめいた。







ジープの羽音とともに、追加の薪を抱えた八戒が戻ってきた頃、煙草を燻らす悟浄の傍らで、は既に眠っていた。









>> Go to Next Page <<

>> Back to Last Page <<


>> Return to index <<

Photo from "ゆんPhotoGallery"(with processing)