悟浄 脱へたれ論 | |||||
文責:wwr(悟浄・捲簾ページ担当) | |||||
はじめに ||
悟浄篇 ||
悟空篇 ||
三蔵篇 ||
八戒篇 ||
傍観者篇 | |||||
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エロ河童、赤ゴキブリ等々、ヘタレの呼び声高い悟浄。しかし彼は本当にヘタレなのでしょうか? 背は高いし、腕っ節は立つし、世慣れてるし、女子供には優しいし、面倒見もいい。そして四人の中では、おそらく一番の常識人。 なのに悟空と食べ物の取り合いをすれば、悟空はハリセンで済んでも悟浄は至近距離から撃たれます。使い走りにはされるし、うっかり空き缶を灰皿代わりにしようものなら、想像するだに恐ろしい目にあわされることは確実。 優しいんだけどね。いい人なんだけどね。と、どうもそこで止まってしまう。良く言えば甘えられる存在、悪く言えばナメられている。しかし私は声を大にして言いたいのです。 「悟浄は もう ヘタレではない」と。 では、偏見と盲愛に満ち満ちた悟浄論に、しばしお付き合いください。 人間の(妖怪も)性格は、持って生まれた性質と育った環境によって形成されます。まずは性質。多少意地っ張りなところはありますが、基本的には普通の子供だったと思われます。 次に育った環境は最悪です。どういう事情で本妻の家に引き取られたのかは分かりませんが、旦那が他所の女に産ませた子供を愛せる女は、そうそういるもんじゃありません。 文字通り殺されるぐらい虐待されて育ちます。 虐待されている子供の多くは、親を恨んだり憎んだりする前に、その原因は自分にあるのだと思うのだそうです。自分さえよい子になれば、親は自分のことを愛してくれる。親は自分のことを愛しているからぶったり蹴ったりするんだ。 自分のことを「いらない子供」「愛されない子供」だと思うよりも、親の暴力を受容する方向に向かうようです。そして小さい悟浄は、自分が憎まれる原因を、周囲から言いつづけられて育ちました。 不義の子であり、禁忌の子であるということ。 やがて義母による虐待はエスカレートし、ついには殺されかけます。幼い悟浄はそれでもいいと思い目を閉じますが、死んだのは義母の方でした。悟浄を守ろうとした兄、沙爾燕に殺されて。これは非常な負い目となって悟浄の中に刻みこまれました。 そして八歳の悟浄は一人で生きていくことになります。 資料がないのでここからは想像なのですが、一人になった悟浄は妖怪の町を出て、人間の中で育ったのではないでしょうか? 紅い髪と目が意味する事は、人間社会ではあまり知られていないようですから、少なくとも妖怪社会よりも生きやすかったのではと思われます。 悟浄の性格から考えると、孤児院などの施設ではなく、市井の人々の間でなんとか育ったのではないでしょうか。どこぞの親分さんちに拾われて半年とか、優しいお姉ちゃんちに転がり込んで三ヶ月とか。 そういう人達の間で育ったとしたら、荒みはしますが歪みはしません。施設や学校といった、閉ざされ、一つの価値観にだけ支配される密封された人間関係で育っていたら、悟浄はああいう性格にはならなかったと思います。(それ以前に脱走するでしょうし) 人から人へと渡り歩き、自分の居場所は自分で作る。力のない子供を利用する人間もいれば、優しくしてくれる人もいる。強い人も弱い人も、きまぐれに関わってすぐに離れていく人もいる。そんな中で育ったから、悟浄は女子供には優しくて、売られた喧嘩は高値買取りな性格になったのではないでしょうか。 八戒さんに会う前は 『生きるなんざ 反吐が出る程簡単 誰とも目を合わせなけりゃいい』 と言っていた悟浄ですが、本人が意識していないだけで、きっちり目を合わせて生きていたはずです。ただ相手に目を背けられるのが恐くて、自分から先に目をそらしていただけで。 鏡を見るたびに、母親に徹底的に拒否された証である顔の傷が映り、それを隠す為の髪は禁忌の子の赤。 そういう自分を受け入れてもらえる自信がなかったのかもしれません。 さて、軽そうに見えながら結構屈折して成人した悟浄は「落ちているものは拾いたい」という性分から八戒さんを拾います。やがてその縁で三蔵様と悟空君と知り合い、あげく四人で西への旅をすることになります。 旅の仲間は擬似家族とも言えます。 有無を言わせずに、全員を引っ張っていくお父さん。 いつも笑顔、でも怒ると恐いお母さん。 元気で生意気だけど可愛い弟。 そんな中、悟浄の位置は「女好きでいい加減に見えるけど、面倒見のいい仲間思いの兄貴」です。 兄貴? いましたよね、兄貴。年上で、力強くて、優しくて、なによりも母親から愛され必要とされていた兄。沙爾燕。 悟浄はお兄ちゃんになりたかったんです、きっと。頼られ必要とされ、それに応えることのできる兄という役割。それを果たすことで、居場所を得る。そういう関係の持ち方しか知らなかったのではないのでしょうか、悟浄は。逆に言えば、代償を要求されない無条件の容認を、彼は信じていなかったとも言えます。 砂漠を走るジープ。その中でくり返される幕間劇は、いつもきちんと役割分担され、大抵はハリセンか銃声で幕を閉じます。そして悟浄にはとても居心地が良かったはずです。自分が『お兄ちゃん』でいられるこの場所は。 でもカミサマ編で家出しちゃうんです、このお兄ちゃん。 目の前で金閣を殺されて、悟浄は一人カミサマのお城に殴りこみに行きます。その途中に仕掛けられていたのは「霧の迷路」。彼を再び殺しにきた義母の幻影に向かって、悟浄は一瞬だけ目を閉じ、そして月牙産をふるいます。 必死で縋りついて、どんな酷い目に合わされても構わない。ただ愛して欲しい。自分が想っている分、想って欲しい。子供のころ悟浄はそう願っていました。 でもそれは無理なことだと、霧の迷路の中で悟浄はもう分かっています。そして愛されないからといって、自分の全存在が無意味になるわけじゃない。愛されないのは悲しくて、それを認めることは辛いけど。だからといって、もう自分自身を消す(殺されてあげる)わけにはいかない。 「愛してくれる母親」という幻像と一緒に、自分自身も斬り捨てて、自分の為には泣けなかった悟浄は、泣けるようになったのです。 対カミサマ戦のことでも山程言いたい事はあるのですが、それはさておいて。 弾は再び装填されました。 フルモデルチェンジした悟浄ですが、相変わらず宿のお姉ちゃんにちょっかい出して蹴られるわ、宿のベッドは取られるわとあんまり変わったようには見えません。 三蔵様に襲い掛かる妖怪を切り裂く時にも、三蔵様には血しぶき一つかからないように気を使っているのに(RELOAD1 42ページ)、相変わらず報われていないように見えます。 暴走した耶雲の行動を見ていられずに、思わず目を閉じる悟浄。彼の優しすぎるところも変わっていません。それでも自分達に襲い掛かる耶雲を倒すことに迷いはしません。ずっと見ていたかった夢と見なければいけない現実。それがもう悟浄には分かっていますから。 八戒と連携を取りながら、悟空を後ろに庇う悟浄は、もうお兄ちゃんではありません。役割に依存することもなく、自分の位置を自分で決めて、そこに居るのです。 耶雲のお墓を建て「もし俺が・・・」と三蔵に言いかける悟空を見る悟浄の目は、対等な仲間を見る目です。 そっくりさんの敵を迎え「今までで一番美形の敵」と余裕をかまし、「昨日の俺」をさっくり倒す悟浄。 まさにゴキブリが脱皮を繰り返していくように、悟浄はヘタレの皮を脱ぎ捨てたと言えましょう。 故に、私は今ここに「悟浄 脱へたれ宣言」するものであります。 ご精読ありがとうございました。 (2002.9.6 掲載)
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